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サイバー攻撃の今と、守りを担う米国企業

サイバー攻撃は、いまや企業の決算を直接左右する問題になりました。投資家にとっては、保有企業が攻撃される「リスク」と、セキュリティ対策への支出が増える「需要」の2つの面があります。手口、予算の流れ、市場規模、主な米国企業の順に解説します。

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要点を7枚のスライドで。スライドだけでも全体がつかめます。

  1. 米株図鑑コラム

    サイバー攻撃の増加で 伸びる米国企業とは?

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  2. 攻撃の被害

    1回の攻撃で 数千億円の損失も

    米医療保険大手のUnitedHealthは、1回の攻撃で約31億ドル(4,600億円超)の損失を出した。日本のアスクルも最終赤字に転落した。

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  3. 攻撃の速さ

    侵入から30分足らずで 社内全体に広がる

    攻撃者は侵入してから平均29分で、ほかのパソコンやサーバーに広がる。人の手だけでは守りきれない。

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  4. 企業の対応

    企業はセキュリティ への支出を増やしている

    被害が大きく、しかも速いため、景気が悪くても削りにくい経費になっている。

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  5. 市場の成長

    サイバーセキュリティ市場は 約37兆円まで成長する見込み

    世界の企業や政府がセキュリティに使う金額。薄い色は予測(Gartner)。

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  6. 伸びる分野と主な米国企業

    特に伸びるのは クラウドとAIの守り

    伸び率はGartnerの2026年予測。企業名は代表例。

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  7. 投資家へのポイント

    同じ関連銘柄でも 伸び方は分野で違う

    主力製品が伸びる分野にあるかを確かめたい。本コラムは特定銘柄の売買を勧めるものではない。

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はじめに

サイバー攻撃は、いまや企業の決算を直接左右する問題になりました。通販大手のアスクルは、2025年10月に(身代金要求型ウイルス)に感染して受発注が止まり、2026年5月期は221億円の最終赤字(前の期は90億円の黒字)に転落しました。米国最大の医療保険会社UnitedHealthは、1回の攻撃で約31億ドル(日本円で4,600億円超)の損失を出しています。

投資家にとって、この問題には2つの面があります。本コラムでは、攻撃の手口、企業の予算の流れ、市場の規模、守りを担う米国企業の順に解説します。

保有株を守る視点リスク保有する企業が攻撃され、業績が悪化する
投資先を探す視点需要攻撃が増えるほど、セキュリティ対策への支出が増える
第1章

損失4,000億円超、赤字転落も。決算を直撃するサイバー攻撃の手口

攻撃を受けた企業は、売上が止まるだけでなく、復旧費用や顧客への補償、訴訟などの費用も負います。攻撃はとにかく速くなっており、米CrowdStrikeの「2026年版グローバル脅威レポート」では、(攻撃者が社内のシステムに侵入してから、ほかのパソコンやサーバーに広がるまでの時間)は、金銭目的の犯罪集団による攻撃で平均29分、最短で27秒でした。異変に気づいてから対応を考えているようでは、間に合わないということです。

侵入から社内に広がるまで平均29分
最短では27秒

金銭目的の犯罪集団による攻撃のブレイクアウトタイム(CrowdStrike 2026年版グローバル脅威レポート)。

主な手口は次の5つです。

1

データを盗み、暗号化して身代金を要求する。工場や物流が止まり、業績への影響が最も大きい。

約31億ドルUnitedHealthの損失(2024年)。アサヒは一時費用約170億円
2

を突く攻撃

ソフトやなどの弱点を突く。の適用を後回しにすると、そこが入り口になる。

31%初期侵入で最も多い手口(Verizon 2026年版)
3

社員や取引先になりすまし、電話やメールでパスワードを聞き出す。

約1億ドルMGM Resortsの損失(2023年)
4

守りの弱い取引先や、利用中のクラウドサービスを入口にする。

48%情報流出のうち第三者が関与した割合(前年は30%)
5

AIを使った攻撃

攻撃者も生成AIを使い、少人数でも大量の攻撃が可能になっている。

3位IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」で初選出

① ランサムウェア(身代金要求型の攻撃)

攻撃者は社内のシステムに侵入すると、データを盗み出し、さらにデータを暗号化(特殊な加工で開けない状態にすること)します。そのうえで「元に戻してほしければ、盗んだデータを公開されたくなければ、お金を払え」と要求する「二重恐喝」が主流です。工場や物流が止まるため、業績への影響が最も大きい攻撃です。

経済産業省所管の独立行政法人である情報処理推進機構(IPA)は、研究者や企業の実務担当者など約250人による審議と投票で「企業が特に注意すべき脅威」の順位を「情報セキュリティ10大脅威」として毎年発表しています。2026年は、ランサムウェアが1位でした。

  • UnitedHealth(2024年2月):子会社のChange Healthcareが攻撃され、全米の病院や薬局で医療費の請求処理が止まりました。約1.9億人分の個人情報が盗まれ、損失は約31億ドル(対応費用約22億ドルと事業中断による影響約9億ドルの合計)に達しました。攻撃者は、社員が社外から社内システムに接続するためのリモートアクセスの入口から侵入しました。この入口には(MFA。パスワードに加えて、スマホに届く確認コードなどで本人を確認する仕組み)が設定されておらず、盗んだパスワードだけで入れてしまいました。
  • アサヒグループ(2025年9月):グループ拠点のネットワーク機器から侵入され、ビールの受注や出荷が止まりました。復旧などの一時費用は約170億円にのぼり、2025年12月期の営業利益は前の期より30.9%減っています(ただし攻撃以外の要因も含みます)。

② 脆弱性(ソフトや機器の弱点)を突く攻撃

ソフトや、VPN装置(社外から社内ネットワークに安全につなぐための機器)などの通信機器には、作った会社も気づいていない脆弱性があります。米通信大手Verizonは毎年、実際に起きた情報流出を分析した「データ侵害調査報告書(DBIR)」を発表しています。2026年版(約2万2,000件を分析)では、初期侵入(攻撃者が最初に社内のシステムに入り込んだ方法)として最も多かったのが脆弱性の悪用で、全体の31%を占めました。これまで最も多かった「盗んだパスワードの不正利用」を、初めて上回っています。

つまり、会社が修正プログラム(パッチ)の適用を後回しにすると、そこが一番の入り口になりやすいということです。作った会社が修正する前に攻撃される「ゼロデイ攻撃」も増えています。

③ ソーシャルエンジニアリング(人をだまして情報を聞き出す攻撃)

社員や取引先になりすまして電話やメールでパスワードを聞き出し、正規の社員として堂々と侵入します。偽メールでだます「フィッシング」に加え、電話でだます「ビッシング」も増えています。

  • MGM Resorts(2023年9月):ラスベガスのカジノ大手です。攻撃者は社員になりすまして社内のヘルプデスク(ITの問い合わせ窓口)に電話し、パスワードを再発行させました。ホテルやカジノのシステムが止まり、損失は約1億ドル(約150億円)でした。

④ サプライチェーン攻撃(取引先や外部サービスを経由する攻撃)

守りの固い大企業を直接狙わず、守りの弱い取引先や、その会社が使うクラウドサービス(インターネット経由で利用する業務システム)を入口にします。②で紹介したVerizonの分析では、情報流出の約半分(48%)で、取引先や委託先などの第三者が関与していました(前年は30%)。自社に非がなくても、取引先の被害で事業が止まる点に注意が必要です。

⑤ AIを使った攻撃

攻撃者も生成AIを使い始めています。①で紹介したIPAの「情報セキュリティ10大脅威」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が2026年に初めて選ばれ、いきなり3位に入りました。

  • Anthropicの生成AI「Claude」の悪用(2025年9月):中国の国家系とみられる攻撃グループ(国の情報機関などの支援を受けてサイバー攻撃を行う集団。金銭目的の犯罪集団と違い、機密情報の窃取や社会の混乱を狙うことが多い)が、大手IT企業や金融機関など約30組織への攻撃にClaudeを使いました。攻撃作業の8〜9割をAIエージェント(人の指示を待たずに自律的に作業を進めるAI)として自動で行い、一部では侵入に成功しています。AIを使えば少人数でも大量の攻撃ができるため、今後は攻撃の数も速さもさらに増えると考えられます。
投資家が知っておきたい点

米国の上場企業は、重要なサイバー攻撃を受けた場合、その影響が重要だと判断してから4営業日以内に、米証券取引委員会()にフォーム(臨時報告書)を提出して開示することが義務づけられています(2023年12月から)。保有銘柄の8-Kに「サイバーセキュリティ・インシデント」の記載が出たら、業績への影響を確認する必要があります。

第2章

企業の予算はどこへ向かうのか。5つの守り方と主な支出先

企業の守りは、家の防犯と同じく3段構えです。第1章の攻撃ごとに、企業が何にお金を使っているかをまとめました。

STEP 1入らせない防御(家なら、鍵や補助錠)
STEP 2入られてもすぐ気づく検知・対応(家なら、防犯カメラや警報)
STEP 3被害を受けても立て直す復旧(家なら、金庫や保険)

点線の用語をタップすると、意味が表示されます

攻撃守り方主な支出先(製品分野)
① ランサムウェアパソコンやサーバーを常に監視し、怪しい動きをその場で止める。攻撃者に書き換えられない場所にデータを保管する、、
② 脆弱性の悪用社内のソフトや機器の脆弱性を一覧にし、危険度の高いものから先にパッチを当てる
③ ソーシャルエンジニアリングで本人を確かめる。社員ごとに使えるシステムや権限を必要な分だけに絞る(ID・アクセス管理)、(管理者権限の管理)
④ サプライチェーン攻撃(社内からのアクセスも信用せず、毎回本人と権限を確認する考え方)で、被害を一部にとどめる、
⑤ AIを使った攻撃守る側もAIで自動的に検知・対応する。社員のAI利用も監視する、

予算の使い方には、次の3つの流れがあります。いずれも、セキュリティ企業の業績を左右します。

プラットフォーム化(まとめ買い)分野ごとに別々の会社から買うのではなく、複数の機能をまとめて提供する1社から買う企業が増えています。幅広い製品をそろえる大手は受注を伸ばしやすく、ひとつの分野に絞った専業企業は大手との競争が厳しくなりやすい状況です。
AIによる自動化ブレイクアウトタイムが平均29分では、人の目だけでは間に合いません。AIで検知から対応までを自動化できる製品に予算が集まっています。
アウトソース(外部委託)セキュリティ人材が不足しているため、MDRのように監視や対応を外部の専門会社に任せる企業が増えています。

また、セキュリティ製品の多くは、一度導入すると毎年契約を更新して使い続ける(定額課金)型です。提供する企業にとっては、毎年繰り返し売上が入る仕組みです。

第3章

世界で年37兆円、年10%超の成長。景気の影響を比較的受けにくい守りの市場

米調査会社Gartnerによると、世界の情報セキュリティ支出(企業や政府がセキュリティ製品・サービスに使う金額)は、2026年に約2,475億ドル(日本円で約37兆円、前年比+12.7%)に達する見込みです(2026年9月時点の予測)。おおむね年10%以上のペースで増え続けており、2026年には2021年の約1.6倍になる見通しです。

世界の情報セキュリティ支出の推移2021年から2026年で約1.6倍

単位:億ドル

出典:Gartner(2021〜2024年は2022年、2023年、2025年7月の公表資料、2025・2026年は2026年9月時点の予測。薄い色が予測)。発表の時期によって集計範囲が異なるため、2023年から2024年の伸びは実際より小さく見えます。

この市場が景気の影響を比較的受けにくいとされる理由は、3つあります。

削ると損失が大きい第1章のように、1回の攻撃で数百億〜数千億円の損失が出るため、不況でも削減しにくい経費です。
規制が強まっている第1章で紹介したSECの開示ルールのように、企業に対策と説明を求める動きが各国で広がっています。
サブスクリプション型が中心第2章で説明したとおり、多くは毎年更新される契約のため、支出が急に止まりにくい仕組みです。

もっとも、景気が大きく悪化すればIT予算全体が絞られ、導入の先送りや製品の統合による値下げ圧力などの影響は受けます。「景気と無縁」ではなく、「ほかのIT支出より削られにくい」という理解が妥当です。

ただし、伸び方は分野によって大きく異なり、「伸びる分野」と「伸びが鈍い・縮小する分野」がはっきり分かれています。

区分分野見通し背景
伸びる分野セキュリティソフトウェア(EDR、IAMなど)2026年に前年比14%以上の増加で、分野別で最も高い伸び(Gartner)業務システムのクラウド化や生成AIの利用拡大で、守る対象が増えている
伸びる分野ランサムウェア対策2025年の約285億ドルから2030年に約635億ドルへ、年率17%前後の成長(The Business Research Company)業績への打撃が大きく、経営陣の優先順位が高い
伸びが緩やかな分野セキュリティサービス(MDRなどの運用代行、コンサルティング)支出全体の約4割を占め金額では最大だが、伸び率は年10%前後(Gartner)人手に頼る部分が多く、AIによる自動化で一部がソフトウェアに置き換わる可能性もある
伸びが鈍い分野個人向けセキュリティソフト(家庭用ウイルス対策ソフトなど)年率3%台の低成長(Gartner)パソコンやスマホに標準の保護機能が備わり、有料ソフトを買う必要性が薄れている
縮小する分野(侵入検知・防御装置、社内ネットワークへの接続を制御する装置)2026年に前年比6〜8%の減少(Gartner)「社内は安全」という前提の古い守り方であり、ゼロトラストやSASEに置き換えられつつある
分野別の伸び率(2026年の前年比予測)点線は市場全体の伸び(+12.7%)
CSPM(クラウドの設定管理)+33.4%
CASB(クラウド利用の監視)+27.2%
CWPP(クラウド上のサーバー保護)+25.9%
ZTNA(ゼロトラスト型リモート接続)+23.0%
ファイアウォール機器+15.9%
脆弱性診断+15.7%
IGA(IDの棚卸し・権限見直し)+14.7%
端末保護(EDRを含む)+14.5%
ID・アクセス管理全体+11.8%
運用代行(MDRを含む)+11.1%
IDPS・NAC−6〜8%

出典:Gartner(分野別は2026年3月時点、市場全体は2026年9月時点の予測)。

投資家にとっては、「サイバーセキュリティ関連」とひとくくりにせず、その企業の主力製品が伸びる分野にあるのか、縮小する分野にあるのかを見分けることが大切です。

第4章

守りの需要を取り込む米国企業。主な上場銘柄と相次ぐ大型買収

第2章の製品分野ごとに、主な米国上場企業をまとめました。大手は複数の分野をまとめて提供しています。銘柄を押すと、各社の業績を確認できるページに移ります。

CNAPP

高成長

クラウドの設定ミスや不正な動きを検知するサービス

市場の伸び:CSPM(クラウドの設定管理)+33.4%、CWPP(クラウド上のサーバーの保護)+25.9%

AIセキュリティ

高成長(市場はまだ小さい)

社員の生成AI利用の監視や、AIエージェントの権限管理

市場の伸び:2026年の約30億ドルから2030年に約160億ドル(年率5割前後。Gartner、2026年9月時点)

SASE・ファイアウォール

高成長

ゼロトラストの考え方で、社員がどこから接続しても通信を確認・検査する仕組み

市場の伸び:CASB(クラウド利用の監視)+27.2%、ZTNA(ゼロトラスト型のリモート接続)+23.0%、ファイアウォール機器+15.9%

バックアップ・復旧

市場平均以上

攻撃者に書き換えられないバックアップと、すばやい復旧

市場の伸び:ランサムウェア対策市場全体で年率17%前後(Gartnerの区分外のため参考値)

脆弱性管理・露出管理

市場平均以上

社内のソフトや機器の脆弱性を一覧にし、危険度の高い順に知らせるサービス

市場の伸び:脆弱性診断+15.7%(2030年までの年平均は12.0%)

EDR・MDR

市場平均並み

パソコンやサーバーで攻撃を検知・封じ込めるソフトと、24時間の監視・対応の代行

市場の伸び:端末保護(EDRを含む)+14.5%、運用代行(MDRを含む)+11.1%

IAM・PAM

市場平均並み

多要素認証などのログイン管理と、社員ごとの利用権限の管理

市場の伸び:ID・アクセス管理全体+11.8%(うちIGA=IDの棚卸しと権限の見直し+14.7%)

※「市場の伸び」は2026年の前年比予測で、分野全体の伸びを示すものです。個々の企業の成長や株価の見通しを示すものではありません。企業名は各分野の代表例であり、特定銘柄の推奨ではありません。銘柄に表示している売上の前年比は、直近の決算の数値です。

世界の情報セキュリティ支出全体の伸びは2026年に12%台(Gartner)です(分野別の伸び率は2026年3月時点、全体とAIセキュリティは2026年9月時点のGartner予測)。これを基準にすると、製品分野は次の3つに分かれます。

  • 高成長(市場平均の2倍前後以上):CNAPP、SASE、AIセキュリティです。いずれも「クラウド化」と「生成AIの普及」という企業のITの変化そのものが需要を生んでいます。ただし、GoogleのWiz買収のように大手が積極的に参入しており、競争も激しい分野です。
  • 市場平均以上:バックアップ・復旧、脆弱性管理です。ランサムウェアと脆弱性悪用の増加(第1章①②)が直接の追い風です。
  • 市場平均並み:EDR・MDR、IAM・PAMです。すでに多くの企業が導入済みの成熟した分野で、市場規模は大きいものの伸びは落ち着いています。この分野の企業は、AIセキュリティなどの高成長分野に製品を広げられるかが成長のカギになります。

各分野の市場が伸びる理由

  • CNAPP(クラウドの設定ミスや不正な動きを検知するサービス):企業は業務システムを自社のサーバーから、AWSやMicrosoft Azureなどのパブリッククラウド(不特定多数の企業が共同で使うクラウド基盤)へ移しています。クラウドでは「責任共有モデル」(基盤の安全はクラウド事業者、その上の設定やデータの安全は利用企業が負うという考え方)が原則で、アクセス権限の付け間違いや、社外から見える状態でのデータ保存といった設定ミスは利用企業の責任です。しかも、複数のクラウドを併用するマルチクラウドや、開発部門が日々システムを更新する開発手法(DevOps)が広がり、設定の数と変更の頻度は人手では確認しきれない量になっています。攻撃者もここを狙っており、CrowdStrikeによると2025年のクラウドへの侵入は前年から37%増え、国家系の攻撃者(国の支援を受けたハッカー集団。第1章⑤参照)による情報収集目的のクラウド侵入に限ると266%増えました。さらに生成AIの開発・運用も多くがクラウド上で行われるため、守る対象は今後も増え続ける見込みです。
  • AIセキュリティ:Verizonの2026年版DBIRでは、会社の端末で生成AIを日常的に使う社員が45%と、前年の15%から急増しました。その67%は会社が管理していない個人アカウントからの利用で、機密情報をAIに入力して漏らすリスクが高まっています。また、プロンプトインジェクション(AIに不正な指示を紛れ込ませて操る攻撃)は90社超で確認されています(CrowdStrike)。今後は企業がAIエージェントにシステム操作の権限を与える場面が増えるため、「AIに何をさせてよいか」を管理する需要が生まれています。
  • SASE・ファイアウォール:リモートワークとSaaS(インターネット経由で使う業務ソフト)の普及で、「社内ネットワークの入口を守ればよい」という従来の前提が崩れました。しかも、その入口であるVPN装置自体が脆弱性を突かれる事例が相次いでおり、中国系の攻撃者が悪用した脆弱性の40%がこうした境界機器を狙ったものでした(CrowdStrike)。そのため、社内に置く従来型の守りの機器(VPN、IDPS、NAC)をやめ、どこからの接続もクラウド上で毎回確認するSASEに切り替える企業が増えています。
  • バックアップ・復旧:最近のランサムウェアは、復旧を妨げるためにバックアップも先に壊しに来ます。そのため、イミュータブルバックアップ(一度保存すると管理者でも書き換えや削除ができないバックアップ)への買い替えが進んでいます。アサヒが受注システムの復旧に約2か月を要したように、復旧の速さが損失の大きさを左右することも、経営陣が投資を増やす理由です。
  • 脆弱性管理・露出管理:第1章②のとおり、脆弱性の悪用は初期侵入で最も多い手口になりました。それにもかかわらず、実際に悪用されていると米政府が公表した脆弱性のうち、完全に修正されたのは26%にとどまり、修正までにかかる日数の中央値は43日でした(Verizon)。攻撃者がAIで脆弱性を探す速度も上がっており、「どれから直すか」を自動で判断する製品への需要が高まっています。
  • EDR・MDR:大企業の多くはすでにEDRを導入済みで、市場は成熟しつつあります。今後の伸びは、中堅・中小企業への普及と、セキュリティ人材不足を補うMDRが中心です。
  • IAM・PAM:こちらも成熟した分野ですが、AIエージェントやシステム同士の連携用アカウントなど、人間以外のID(非人間ID)が急増しています。これらの棚卸しや権限の見直しを行うIGA(IDガバナンス)が、分野全体より高い伸びを示しています。

なお、市場の伸びと個々の企業の伸びは一致しません。同じ分野でも、シェアを奪う企業と奪われる企業があるため、各社の売上成長率やもあわせて確認する必要があります。

相次ぐ大型買収

この業界では、大手による大型の(企業の合併・買収)が続いています。第2章のプラットフォーム化の流れに合わせ、顧客に「まとめて全部」を売れるよう、大手が自社に足りない分野の企業を買い足しているのです。

  1. 2026年に完了・同社史上最大の買収Google(親会社はAlphabet)→ Wiz(CNAPP)約320億ドル
  2. 2026年2月に完了Palo Alto Networks → CyberArk(PAM)約250億ドル
  3. 合意済み・2027年前半に完了予定Proofpoint(非上場)→ Varonis(データセキュリティ)約63億ドル

この業界の企業を分析するときによく使われる指標

ARR年間経常収益サブスクリプション契約から毎年入る売上の規模です。事業の実力を示す指標として重視されます。
NRR売上維持率・既存顧客の売上拡大率1年前からの顧客が支払う金額が、1年前と比べて何%になったかを示します。たとえば110%なら、新しい顧客を1社も獲得しなくても売上が10%増えたことになります。
GAAP / Non-GAAP正式な利益と、会社独自に調整した利益決算発表では、社員への株式報酬などを差し引かないNon-GAAP利益を前面に出す企業が多くあります。その数字では黒字でも、GAAP(米国の正式な会計基準)では赤字という企業もあるため、どちらの数字かを確かめることが大切です。

まとめ

  • サイバー攻撃は、生成AIの普及でより速く、巧妙になっています。1回のランサムウェアで赤字に転落する企業も現れ、保有銘柄のリスクとして無視できません。
  • 企業の予算は、「プラットフォーム化」「AIによる自動化」「アウトソース」の方向に流れています。
  • 世界の情報セキュリティ支出は2026年に約2,475億ドル(約37兆円)と予測され、年10%以上の成長が続いています。
  • 米国には分野ごとに特色のある上場企業がそろう一方、大手による大型も相次いでいます。

用語集

ランサムウェア
データを暗号化して使えなくし、元に戻す代わりに身代金を要求する攻撃。最近は、データを盗んで「公開する」とも脅す二重恐喝が主流。
ブレイクアウトタイム
攻撃者が社内のシステムに侵入してから、ほかのパソコンやサーバーに広がるまでの時間。短いほど対応が難しい。
DBIR
米通信大手Verizonが毎年発表する、実際に起きた情報流出を分析した報告書。
脆弱性
ソフトや機器にある、設計上の弱点や不具合。攻撃者はここを突いて侵入する。
VPN装置
社外から社内ネットワークに安全につなぐための機器。社内への入口になるため、攻撃者に狙われやすい。
パッチ
ソフトの脆弱性や不具合を直すために、提供元が配る修正プログラム。
ソーシャルエンジニアリング
社員や取引先になりすまし、電話やメールでパスワードなどを聞き出す手口。技術ではなく人の油断を突く。
サプライチェーン攻撃
守りの固い企業を直接狙わず、守りの弱い取引先や利用中の外部サービスを入口にする攻撃。
多要素認証
パスワードに加え、スマホに届く確認コードなどで本人を確かめる仕組み。パスワードを盗まれても侵入されにくい。
SEC
米証券取引委員会。上場企業の情報開示のルールを定め、監督する政府機関。
8-K
米国の上場企業が、重要な出来事があったときにSECへ提出する臨時報告書。重要なサイバー攻撃もその対象。
EDR
パソコンやサーバーを常に監視し、攻撃を見つけたらその場で封じ込めるソフト。
MDR
監視と対応を、外部の専門会社が24時間代わりに行うサービス。人材が足りない企業が使う。
バックアップ・復旧
攻撃者に書き換えられない場所にデータの控えを保管し、被害を受けてもすぐ元に戻せるようにする仕組み。
脆弱性管理・露出管理
社内のソフトや機器の弱点を一覧にし、危険度の高いものから順に直すよう知らせるサービス。
IAM
社員のIDを管理し、誰がどのシステムを使えるかを決める仕組み。多要素認証もここに含まれる。
PAM
システムを自由に操作できる「管理者権限」を厳しく管理する仕組み。
ゼロトラスト
社内からのアクセスも信用せず、毎回本人と権限を確認する考え方。侵入されても被害を一部にとどめられる。
SASE
社員がどこから接続しても、通信の確認・検査をクラウド上でまとめて行う仕組み。
CNAPP
クラウド上の設定ミスや不正な動きを見つけるサービス。
SOCの自動化
セキュリティ監視センター(SOC)が行う検知や対応を、AIで自動化すること。
AIセキュリティ
社員の生成AI利用を監視したり、AIエージェントに与える権限を管理したりする製品。
サブスクリプション
一度導入すると、毎年契約を更新して使い続ける定額課金の仕組み。提供する企業には毎年繰り返し売上が入る。
IDPS・NAC
侵入を検知・防御する装置と、社内ネットワークへの接続を制御する装置。社内に置く従来型の守りで、縮小しつつある。
NRR
既存顧客の支払額が、1年前と比べて何%になったかを示す指標。110%なら、新しい顧客がいなくても売上が10%増えたことになる。
M&A
企業の合併・買収。この業界では、大手が自社に足りない分野の企業を買い足す動きが続いている。

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出典

本コラムは情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。記載の数値は2026年10月時点の公開情報に基づきます。円換算はおおよその目安です。